
『一樹さんは、今頃何を考えて、何をしているんだろう。 やはり、暴走しそうな若さを、滾る躯を冷まそうとコーラでも飲んでいるのかしら。 それとも、私を抱こうと裸になってくれている? まだ一樹さんは来ない。 ドキドキする。 そのドアを今にも開けて、一樹さんが来たら、私は何て言えば。 こんなにも人の事を考えたことがない。 こんなにも人の気持ちが痛い程気になったことはあった? 町野先生には恋したと思っていたけど、先生の気持ちを思ったことはなかった。 何をしているか気になったことも。 今は一樹さんのことで頭がいっぱい。 怒っているのか、歓んでくれているのか、私のことをどう見てくれているのか。 腕の中でも一樹さんの気持ちばかりが気に掛かる。 それなのに私の躯は感悩に滾って。 打たれたい。 痛みを味わいたい。 あの人の手で、一樹さんの手で、例え嫌われても呆れ果てられても、壊されたい。 壊して欲しい。 あぁ、この躯が疎ましい。』
冷たいシャワーは滾る想い迄までは冷ませはしなかった。 燃える感悩の炎も消えはしなかった。 若い美沙の肌は冷たいシャワーを跳ね返し、却って火照っていた。
桜色に輝く柔肌に直接バスローブを羽織った。 女の肌で誘惑しようとしている自分に気づいて自嘲気味に嗤った。
一樹はまだ服も脱がずに、ソファで煙草を吸っていた。 窓の四角い光のキャンバスにすっと佇む一樹のシルエットが浮かび上がっていた。 絵画の様なその姿を美沙は天使に魂を吸い取られた罪人の様にぼうーっと見つめていた。
一樹が美沙に気づいて、視線を向けた。 美沙は恥ずかしさに頬を朱らめる。
「待ってたのに。 遠慮した?」
一樹の隣に座った。アップに髪を留め、後れ毛が霞むうなじを一樹の肩に預けた。
「壊してもいいんですか?」
一樹は煙草に火を付けながら言った。
『どうして? もしかして、ずっと煙草を吸いながらそれを考えていてくれた? ごめんなさい。 この人をこの純粋な人を穢してしまうかも知れない。 でも、この人はきっときっと、ずっと強い。 私を壊しても、穢れた私を抱いても、この人は穢れを知らずに生きていく。何もなかった様に。 壊されたい。 今の私を。 これからの私を、この人の手で。』
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冷たいシャワーは滾る想い迄までは冷ませはしなかった。 燃える感悩の炎も消えはしなかった。 若い美沙の肌は冷たいシャワーを跳ね返し、却って火照っていた。
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一樹が美沙に気づいて、視線を向けた。 美沙は恥ずかしさに頬を朱らめる。
「待ってたのに。 遠慮した?」
一樹の隣に座った。アップに髪を留め、後れ毛が霞むうなじを一樹の肩に預けた。
「壊してもいいんですか?」
一樹は煙草に火を付けながら言った。
『どうして? もしかして、ずっと煙草を吸いながらそれを考えていてくれた? ごめんなさい。 この人をこの純粋な人を穢してしまうかも知れない。 でも、この人はきっときっと、ずっと強い。 私を壊しても、穢れた私を抱いても、この人は穢れを知らずに生きていく。何もなかった様に。 壊されたい。 今の私を。 これからの私を、この人の手で。』
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